2022/09/22
従業員の介護問題を会社事として背負う準備、ありますか?
仕事と「育児」の両立支援、仕事と「病気」の両立支援など、近年、仕事を継続するうえでの課題の解決を会社が支援することの重要性が指摘されています。
これは、従業員にとって本意でない離職を防止したり、心身の不調を防止するために必要なことはもちろん、会社にとってもスキルを持つ従業員の定着や、課題に直面した社員のプレゼンティズム(出勤しているにも関わらず、心身の健康等の問題によりパフォーマンスが低下している状態)を防止する観点で重要性が指摘され、これに各企業が力を入れて対策を講じています。
そして、第 3 の両立支援として重要性が増すと考えられているのが、仕事と「介護」の両立支援です。
2025 年には団塊世代のすべてが後期高齢者に到達し、親の介護を理由とした仕事への影響が懸念されています。
そこで今回は、先日開催された、「仕事と介護の両立支援セミナー」の講演から、従業員が仕事と介護を両立するための支援についてレポートします。
従業員は介護への不安を増している?
2019 年に実施された厚生労働省の委託調査によると、
「現在の勤務先で手助・介護をしながら仕事を続けることができると思いますか?」という問いに対し、
▶「続けられる」と回答した人の割合は 24%
▶「続けられない」と回答した人の割合は 42%
(「わからない」と回答した人の割合は 34%)
同様の調査が 2014 年にも実施されており、その時の回答では前者が 22%で後者が 35%だった。
「続けられる」と回答した人の割合はわずかに改善したものの、「続けられない」と回答した人の割合はむしろ増加している。
この間、介護との両立支援が全くなされていなかったわけではなく、本セミナーの参加企業においても 90%以上の企業で両立支援制度を制定しているなど、むしろ多くの会社が介護との両立支援を推進してきた。では、なぜ、従業員の不安が増大しているのであろうか。
その理由を本セミナーで講演した、東京海上日動ベターライフサービスの小林氏は、従業員に「両立支援制度が伝わっていない」もしくは「使い方が良く理解されていない」ことが影響していると分析している。
家族の介護の問題は、直面した従業員が上手く支援策を活用して負担を軽減することができないと、介護のための急な休暇や遅刻・早退など勤怠が不安定になったり、その負担から心身の不調につながることも珍しいことではなく、最終的には介護離職に繋がる大きな問題だと指摘する。
このことは、会社にとってもプレゼンティズムの悪化、さらには従業員の社外への流出といった形で生産性にも悪影響を与える。
会社にとっては、従業員が介護との両立制度を理解し有効に利用してもらえるように、まずは実態を正しく把握し具体的な支援体制の構築に繋げていくことが喫緊の課題だ。
介護についての実態把握がまずは対策のスタート
介護の実態を把握することは、「会社の両立支援の方針決定」「従業員の介護離職防止および介護によるプレゼンティズムの解消」「会社の両立支援体制の整備・見直し」に効果があると小林氏は説明する。
例えば、ある企業で【将来介護をする可能性】についてアンケートを取ってみると、今後介護の可能性があると答えた従業員が 70%近くに及んでいた。
このことは今後、家族介護が就業に影響を及ぼす範囲の想定や、潜在的に不安を抱える従業員の人数の想定を容易にし、方針の決定や具体的な対策の実施に有用なデータとなる。
把握の方法としてはアンケートの実施が最も合理的だが、実施にはいくつかの工夫が必要だという。
ポイントは「無記名」「年齢に依らず全従業員を対象」「定期的な実施」「フィードバックは必須」の 4 点だ。従業員の本音を数多く集めることでより有用なデータになり、また、早くから従業員に介護とのことについて考えてもらうきっかけにもなる。
個別の具体的な情報の把握には、面談によるヒアリングを行うことが有効だ。ただし、介護の問題は自身の仕事への評価等を気にして積極的には話したがらないこともあり、面談時はもちろん、職場で介護のことを話しやすい雰囲気をつくるなどの取組みも並行して行う必要がある。
従業員の支援のベースは「思い」の共有と「目的」の理解
実態把握の後は支援策を構築していく。支援策は「介護前の支援」と「介護中の支援」の 2 つに分けて準備する。
「介護前の支援」の柱はやはり介護との両立に関する啓発活動となる。
その際に大切なことは、「会社の思い」「両立支援制度の目的」「介護に直面した際の相談先」「将来の介護について家族と話す」の 4 点を定期的に従業員に伝えておくことだ。
「会社の思い」を伝える王道は会社トップが伝えることで、取組みの進んだ企業では啓発冊子の冒頭でトップのコメントを掲載したりすることが多い。トップが語ることにより会社の本気度が伝わり、従業員の介護への関心も高まる。
また、「両立支援制度の目的」がしっかりと理解されることで介護離職の防止にも繋がる。どのように介護を頑張るのかではなく、専門家の力を借りて利用できる介護サービス等を活用し、仕事と介護が両立できる体制を構築することで介護の負担を減らし、職場復帰を促す。
ここまでの定着を図ることがまずは肝要だが、円滑に実行に移すためには「介護に直面した際の相談先」も明確にしておくことも必要だ。働き方については人事や上司、介護については地域包括支援センターといったように、イザというときに従業員が迷わないように予め伝えておくことがもとめられる。
また、「将来の介護について家族で話す」ことも欠かせない。介護を受ける家族と、介護をする従業員の間で「親の介護は子供がすべき」と過度に親の期待が大きいなど、介護の在り方について齟齬が生じると、折角の両立も実行に移せなくなることもある。食事や排せつなどの介護は心身共に負担が大きく、一定程度これを手放せないと仕事と介護の両立はままならない。親が元気なうちに介護の在り方についてすり合わせておくことは両立を円滑にするうえでは留意しておきたい。
従業員を支援する体制は Who・When・What
介護中の従業員の支援体制を構築する上で、「誰が」支援の主体になるかは重要なテーマだ。小林氏によれば、これまでの経験を踏まえ職場の「管理職」がキーパーソンだと語る。
管理職は当該従業員との接点が強いのはもちろん、業務状況を把握している点でも最も効果的な支援をできる存在だ。しかし、管理職への意識の醸成は進んでいるとは言えないのが現状だ。2019 年の厚生労働省の委託調査によれば、既に実施済みとした企業は 8%に留まった(実施予定がある:45%、予定はない:47%)。
実際に、管理職の負担増加を懸念する人事担当者も多いという。しかし、管理職の参画が進まないと、管理職の理解度の差で介護との両立をしやすい職場とそうでない職場の差が大きくなったり、場合によっては所謂ケアハラスメントが職場で発生するなど企業のリスクにもなると小林氏は続けた。
また、支援を「いつ」するのかというタイミングも考慮したい。介護との両立は「初期」「体制構築期」「両立期」の 3 つの段階に分けることができる。介護が現実化した「初期」の段階では、課題の整理や当面の働き方の調整、両立のための準備を整える「体制構築期」には介護の方向性の決定や会社の制度を活用した両立体制の構築、仕事と介護の両立を実践する「両立期」には仕事と介護の両立を妨げる課題が出てきたらその対処について話し合うといったように、段階によって両立の課題も変遷するためそれに合わせた支援が必要となる。
そして「何を」するのかを具体的に決めることはもちろん欠かせないテーマだ。「初期」の支援においては専門家と相談するようにアドバイスすることがポイントとなる。課題を整理しつつ、早期に介護の方向性を決定することに繋がっていく。「体制構築期」には介護の方向性を決定し、両立の仕方を決めていくことになるが、そのためには業務調整や業務の引継ぎなど職場の理解が欠かせない。平時から介護について共有できる風土づくりの必要性は先にも触れたが、職場の管理職としては、介護をする従業員を支える周囲のメンバーへの声かけや気遣いといったフォローも大切だ。
そして「両立期」には定期的な面談により両立上の問題点を早めに把握できるように努める。従業員からは言い出しにくいこともあるので管理職もしくは人事から声をかけるようにすると良いだろう。
課題の解決方法として、今日的には在宅勤務を選択肢として検討することも珍しくない。しかし、これには注意が必要で、在宅勤務とした場合「仕事」と「介護」の境目がなくなりかえって従業員の負担が大きくなるリスクもある。仕事と介護の時間をしっかりと分離できるかなどを見守ることも必要だ。
このように「誰が」「いつ」「何をする」の 3 つの視点で支援体制を構築し、実行していくうえで、会社の制度を理解する専門家が従業員の両立へのアドバイザー(相談窓口)としていると支援がより円滑になる。通常従業員が相談することになる介護の専門家は必ずしも会社のことに詳しいとは限らず、実状に即したアドバイスが難しいケースもある。会社のことを理解し、その従業員に合わせたアドバイスができる専門家との連携ができれば、人事担当者や管理職の負担も減らすことができ、より効果的な両立体制強化につながるだろう。
介護離職ゼロに拘るのでなく、両立を望む従業員のための支援を考える
両立の在り方に関する従業員の考えは当たり前だが人によって異なる。会社としては介護離職をゼロにしたいところだが、人によっては様々なデメリットも考えたうえで介護を優先し離職をする人もいる。会社としては従業員の意思を尊重しつつ、意図せず離職に追い込まれる従業員を支援していくという姿勢も必要だ。
会社として、「仕事と介護を両立したい」という従業員が元気で生き生きと働けるように、どのような支援ができるのか、どのような支援をすべきかを考えていくことが重要だと、小林氏は結んだ。
講師紹介
東京海上日動ベターライフサービス株式会社
企画部 課長 小林 隆雄
・介護福祉士
・キャリアコンサルタント
大手鉄鋼メーカー輸出部門を経て福祉業界へ。
介護事業所の介護スタッフから、管理者・所長・エリアマネージャー・エリアの人事総務責任者、拠点支援部門を経て現職。
介護専門職・キャリアコンサルタントの視点から仕事と介護との両立支援に取り組む
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